逃避口はどこ?


−ゴシックハート−

残暑のように暖かかった秋も過ぎ、
あたしの長袖のブラウスの中をやっとの冬らしい風が通り過ぎてあたしは寒さを覚えた。
ただいまと玄関を開ければ温度差のある空気があたしを迎え、
ほっと息を吐く。
お帰りと共に帰ってきたのはカチャカチャと食器のぶつかり合う音と。
ひたひたと靴下越しにでも冷たい廊下を辿り、
暖簾を上げると三角巾にエプロンで皿を洗う葉がいた。

「おぉ、お帰り」

「ただいま。何作ってるの?」

ジーーーッとタイマーを動かしながらうなるオーブンへと歩み寄ると
葉は慌ててそれを制す。

「何?」

「今はダメなんよ!後でな?後でのお楽しみだ」

そう言って笑う葉に膨れっ面で『変なの』と吐き捨てる。
近くにあった椅子に座りちらりと横目で見れば、
普段気づかなかったことに気づく。
毎晩触れている背中も以前、ここに来たときよりも確実に広くなっていて、
ぶつぶつと呟く声も普段聞くどの音質にも合わない音をしている
目を閉じてみると葉がこちらを見て微笑むのが気配でわかる。
この場で寝ようとしても制さないのは彼なりの気遣い。

「少しだけ甘えさせて・・・」

口の中だけで呟くとあたしは深く深く瞼を落とした。


*   *   *   *


耳に入ってきたのは出来上がりを知らせる機会音で、
鼻を突いたのは香ばしく甘酸っぱい香。
肩を触れられたあたしは瞼を起こし、目を擦った。

「ほれ、できたぞ」

ミトンをつけたままで目の前にそれを置くと、
漂う香が一層濃さを増す。

「アップルパイ・・・どうしたの?これ」

「ばぁちゃんからリンゴ送られてきてな、アンナ好きだろ?これ」

さくさくとナイフを入れる音がして、
中からは乳白色の湯気が立つ。
渡された皿から更に小さく切って口へと運べば、
温かさと甘さがじんわりと口腔に広がっていく。

「おいし・・・」

「そっか?そりゃあよかった」

「あんたは食べないの?」

「あぁ、オイラはそれでいいや」

そう言って罪を背負うことを知らないような我が物顔で
指差す先にはあたしの持つアップルパイ。

「これあたしの・・・・」

「オイラが作ったんだし食わせてくれたっていいだろ?」

「・・・・今回だけよ」

そう言ってあたしは何度この男に気を許したのだろう。
もう数えるのも億劫だとパイにフォークを入れた。
恥ずかしさのあまりにぐいっとパイを突き出せば、
自分の目論見が成功したと緩める口が大きく開いて、
銀色に光るフォークも姿を隠した。
熱い熱いという口が『上出来だ』と頷き語った。

「来年も期待してるわ」

そう言ってあたしはほんのりと膨らむ葉の頬に口付けた。

「ゴチソウサマ」

スカートを翻して微笑むあたしは勝者。
それでもあたしはヤッパリ弱くてするりと手首を掴まれて、
息を熱く感じるほどに引き寄せられて、
『オカワリは?』の声のその甘さにくらりと眩暈を覚えた。
躊躇うことなくあたしは『イタダキマス』と腕も絡めて、
テーブルに置かれたアップルパイよりももっともっと甘い彼を口にした。

 

END

 

開設オメデト〜〜vv
念願?叶ったねぇv
何もやらない副管理人頑張るから(笑)
これからよろしくねぇ☆