−冬の幸せ−


 もう既に、夜も長くなり始めた神無月の夜。
 夕飯を食べ終え、風呂にも入って
 オイラは炬燵でまったりとしている。
 アンナはというとオイラの向かいに座って、
 オイラのマフラーを作成中。
 二日程前に編み始めた深緑色のマフラーは、
 既に首に二巻きは出来るであろう長さになっていた。
 風呂上りのほんのりと朱に染まったアンナの細い指が、
 深緑の毛糸を掬い、少し太めの編み棒で器用に編んでいく。

 毛糸が編まれていく程に、その長さを増すマフラー。
 オイラはその様子を何をするでもなく眺めていた。
 少し前までは『見てるだけで何が面白いの?』とか
 『遣り辛いから見ないで』などといっていたアンナだが、
 今ではもう諦めたのか何も言わなくなった。
 たまに、間違えたのか指を留めて糸を解き、
 棒に戻す仕草をするアンナがなにやら無性に可愛くて
 オイラは微笑む。
 そんなオイラにアンナは僅かに頬を染め、
 軽い睨みを利かせてオイラは見る。
 けれどそれも少しの間。
 アンナの意識は直ぐにマフラーの方へと移ってしまうのだ。
 いつもとは違う柔らかな表情をして・・・・。
 アンナがオイラのために作ってくれているマフラーにさえ、
 嫉妬しちまいそうになる。

 流石のオイラも長い間一定の作業を見ているのは
 つまらないものがある。
 小腹も空いたので卓袱台の上にある蜜柑に手を伸ばすと
 アンナは俯いていた顔を上げオイラを見た。

 「食うか?」

 皮を剥いた蜜柑を半分に割りながらアンナに尋ねる。

 「食べる。あ、でも手が汚れるから食べさせて」

 オイラは顔を綻ばせ(ほころばせ)、
 綺麗に筋を取った蜜柑をアンナに食わせてやる。

 「ん」

 オイラの指から蜜柑を取る際に触れたアンナの舌の
 熱さと吐息の暖かさに、
 オイラの体は粟立ち、カッと熱くなる。
 それに気づいていないアンナは、
 極上の笑みと共に「ありがと」と一言。
 先程のことで、
 既にどうにかなっちまいそうだったオイラなのに
 そのときのアンナの可愛さときたら
 ・・・・・・・・くぅ〜〜〜、たまんねぇ(悦)
 “理性を失わないように”と
 オイラは蜜柑を食うことに集中する。 

 再び訪れた沈黙。
 しかしその沈黙は心地よい。
 ストーブの上でシュンシュンと唸る薬缶(やかん)も、
 チャッチャッと編み棒のぶつかり合う音も、
 とても心地のよいものとなって、
 オイラの脳髄へと染み込んでいく。
 目の前には可愛い嫁さんがいて、
 オイラを包むのは柔らかな沈黙で・・・・・・
 この当たり前なことを、オイラはとても幸せに思う。 

 オイラが幸せに浸っていると「出来た」と嫁さんの声。
 閉じていた眼を開き、顔を上げるとそこには
 編み目の揃っている、
 綺麗な深緑色のマフラーを持ったアンナがいた。
 アンナは満足気な顔をすると、
 できたばかりのマフラーをオイラに渡した。
 渡されたマフラーはふわふわしてて、柔らかくて・・・・・・
 思わず顔がにやけた。
 そしてオイラはマフラーを巻く。
 それはとても温かくて、
 どんな寒さにも耐えられるくらいに温かくて。

 「ありがとな、アンナvv」

 「どういたしまして」

 オイラが笑顔で礼を言うと、
 アンナは少し照れた顔で応えてくれる。

 「なぁ、ところでどうしてこんなに長いんよ?」

 深緑色のマフラーは、
 毎年アンナが編んでいるマフラーの
 二倍以上の長さだったのだ。

 「何でって、だってあんたとこうできるでしょ?」 

 頬を真っ赤にしたアンナがとった行動は、
 オイラの隣に座り、オイラの巻いているマフラーの
 残った部分を自分に巻きつけることだった。
 そのアンナの行動にオイラはキョトンとし、
 微笑み、抱き締めた。
 アンナが作ってくれたマフラーごと。

 けど、やっぱり何もかもうまく行くわけなどなく、
 オイラは案の定左の頬にアンナから綺麗な紅葉を貰った。
 オイラはそれを摩りながら、
 怒って「寝る!」と言ったアンナを呼び止めた。

 「なぁ、アンナ。早くもっともっと寒くなるといいな」

 ―――だって、そうすればこのマフラー巻いて
    一緒に出かけられるだろう?

 笑いながら言ったオイラにアンナは一言。

 「おバカ」

 しかしアンナはその言葉とは裏腹に微笑んでいた。

 「葉。今夜も冷えるわね」

 アンナの言葉に隠された意味を素早く理解し、
 オイラはアンナと共に寝室へと向かった。



 END