がらりと開けた脱衣所がいつもよりやたらと湿っぽいことに気づき、
あぁそうか、となんだか妙に納得した。
アンナと暮らし始めて数日。
遠いと思っていたことがこんなにも早くに来るだなんて、
まだまだオイラはこのむず痒いような苦い生活を飲み込めないでいた。
流した身体を湯につけると、
鬼のような修行でできた左腕の切り傷がひりりと痛む。
昨日できたかすり傷はかさぶたを作り、
彼女と暮らし始めた日の傷はもう消えてしまうそうに薄れていた。
少し眉根を寄せてから今日一番のため息をつく。
10分前に鼻についた、
風呂場にこもったシャンプーの香りがまだ抜けないでいた。
* * *
例えば玄関に並ぶ靴の数とか一人分増えた食器や洗濯物の量だったり、
夜中に廊下で聞こえる静かな足音だったり、
光の漏れる部屋だったり。
そういう細かな生活の節々に彼女の色が垣間見え、
『同棲』の二文字が否応なしに頭に浮かび無駄に顔を赤らめてしまう。
まぁ、そんな何気ないことが新鮮だったり。
がしがしと頭を拭きながら居間に戻ると、
同じ浴衣を着た彼女の濡れた髪が見え、風呂場でのことを思い出す。
「あ…」
振り返った彼女はじぃっとオイラを見て
『どうしたの?』
と首をかしげる。
「あ、イヤ」
「何よ」
ハッキリしなさい、とでも言いた気に目を細める。
「イヤァ、よろしく、な。これから」
照れ隠しに笑い、頭を掻きながら俯いていた顔を上げたら、
『こちらこそ』
と消え入りそうな声と、同じくらいに赤く染まった頬を見た。
近づいたら同じシャンプーの香りがした。
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初期ふうふ。
たまには純に。
ちょっと思春期。