『安心しろ』
その言葉が絶対的な呪文
−哀しいヒト−
涼やかな、だけどもほんの少し湿気を含んだ風が
僕の身体を撫でていった夕刻。
いよいよ陽も眠りに就こうとしているのか、
紫からオレンジへのグラデーションが綺麗だ。
「ねぇアンナさん・・・」
先程まで庭先で腹筋やら背筋やらに勤しんでいた葉が、
アンナさんの命を受けて走りに出かけたのは僅か数分前。
つまり今の炎には僕とアンナさんの二人きり。
そう、これは果てしなく続きそうな無音の空気に耐えられなくなって聞いたこと。
「アンナさんの怖いものって何?」
「う、うん」
聞いたらいけなかったのかと緊張し、
ほんの少しだけ自然と声が裏返る。
何も言わないアンナさんと、
その被害者になるかもしれない己の身に不安を感じ、
こそりとアンナさんの顔を覗き込もうとしたその時だった。
「・・・・・・葉、かしら・・」
予想外の答えに僕は驚きを隠せずに、目を丸くした。
「え、なんで・・?」
しばらくしてアンナさんはとても静かに、遠く目を細めて切り出した。
「・・・葉はね、あたしの全て、そういっても過言ではないわ。
あたしにとって葉という存在はとても重要なもの。
唯一全てを許せて、唯一あたしを癒してくれる。
そして唯一骨になって朽ち果てても、共に在りたいと想える存在なのよ。
あいつは強くて優しいわ。
全てを素直に受け止め包み込んでしまう。
それ故とても傷つきやすい。
あいつの時々見せる寂しげな表情はあたしを傷つけ落ち込ませる。
けどあいつの笑顔であたしが安らぎ、勇気付けられるのも事実。
だからってわけじゃないけどあいつにはいつでも笑っていてほしいと思うのよ。
その葉が身も心もあたしから離れて行くかもしれないなんて、
そう考えると、ココが痛いわ・・・」
アンナさんは少し俯き自分の胸を人差し指で軽く触れた。
「アンナさん・・・」
「さぁ、もういいでしょ?そろそろ葉が帰ってくるわ」
ふいっと顔を背け立ち上がるアンナさんに、
何も言えずにいた僕の耳に入ってきたのは、
アンナさんの声と玄関を開ける大きな音。
「ただいま〜〜」
「おかえりなさい」
廊下で響く二人の声に僕は幸せを感じ、
ふと頬を緩め、
改めてあの二人の絆の深さをこの胸に叩き込んだ。
END
合同本の対のもの。
勢いに任せて書いちまったいっ。
珍しく夫婦以外の登場人物で。
旦那と嫁には病的な狂気的愛情の世界を持っててほしい。