いつだってアナタが此処に居る気がしてたのは
あたしの中の疑いようのない真実がそうさせていただけ


−此処に居ると謂ふこと−


身体がカァッと熱くなった。
少し急ぎ足で歩くと
乱暴な音がギィギィと追いかけてくるのが自棄に耳障りで、
あたしは部屋に逃げるようにして駆け込み襖を閉めた。
心臓が激しく脈打ち、
有り得ないくらいに熱く、
例えるならば彼を愛おしむ行為の熱にも似ていた。
写真を撮ろうと言った彼の心中など知っていた。
だからこそ腹が立った。
否、切なかった。
だってそれはまるで、
言葉のない最期の別れのようで…。


「なんなのよ・・・っ」


一筋の涙が頬を伝い嗚咽が込み上げていたとき、
背にしていた襖から鈍い、空気を込めた音が二回立てられ、
その振動に筋肉が緊張して思わず涙をぬぐった。


「あ〜、アンナ?なんか、スマンかった…」


『その…』と戸惑いを含んだ声が聞こえたときには、
あたしは思い切り襖を開けていた。
突然のことに驚く葉を尻目にあたしは床に向かって
ヒステリックに叫ぶようにして先程の独り言の続きを言った。


「バカにして…っ!!」

「ア、アンナ…?」


呼吸をして、息を整えて、
状況が把握できていないのであろう葉に低い声で言う。


「アンタ、あたしが何も知らないと思ってるの?」


黒い瞳が一瞬揺らめき、空気が張り詰めたのがわかった。

嗚呼、何でだろう。
知らないふりを通すつもりだったのに。
イイ女でいたかったのに。
なんで、あたしは…。


「想い出になんかしないで…っ」

「アンナ…」

崩れるようにしてへたりと座ると、
我慢していた嗚咽が可笑しいくらいに込み上げてこの胸を詰まらせた。
やがて目の前の、深緑色のズボンの皺が形を変えたのが見えると、
それとほぼ同時にふわりと頭に温かな体温を感じた。
それは今ではあたしより一回りも二回りも大きくて、
こんなことでさえもこの人との距離を感じると切なさに押し潰されそうだった。
葉があたしの肩を抱くと自然と彼の肩にあたしの頭が乗り、
まるで当然の流れのように
『大丈夫だ』
と耳元で声がした。
頭を撫でる掌も、
抱かれた肩の体温も、
抑え切れない想いも、
何もかもがずっとずっと続くような気がして
あたしは一言悪態を吐くと一粒だけ涙を流した。

 

 

END

 

写真=想い出
ということがこの二人にとっては、特に嫁にとっては
とても辛いことなんじゃないかと思って書いたものでした。
想い出だぇで生きていくのは楽なのかもしれないけれども、
この二人にはそれができないと思うから。