だけどもゆるやかに流れゆく


 −ノンシュガー−


 いつもと同じ朝。
 いつもと同じ匂い。
 いつもと同じ温もり。
 けれどもいつもと違う日。
 薄く目を開けると沢山の光が射していて、
 逆光で陰になるのは彼の姿。
 もたつく口を開いて修行を言い渡すと、
 朝冷えの空気を震わせる悲鳴。
 あたしが睨みを聞かせて横目で見れば、
 葉は言葉を詰まらせて名残惜しそうに布団から出て行った。
 襖の閉まる音を確認すると、
 あたしは一人広くなった布団に擦り寄る。
 シーツを掴み大きく深呼吸をすると、脳も肺も、
 体全部が葉で一杯になる。
 残り香と温もりに縋るようにして潜ると、
 あたしは再び目を閉じた。

 朝ご飯を知らせる葉の声で目を覚まして階下へ降りれば、
 既に整っている食事。
 食べ終えると葉はいつものように修行をして、
 いつものように家事をした。
 そしていつものように買い物に行こうとしている葉が、
 深々と溜息し、
 ぼそりとワケのわからない独り言を零しているのに
 気がつかなかったわけではない。
 だってそれは寂しくなったときの彼の癖だから。
 『買い物に行ってくる』と項垂れた声を背に受け、
 あたしは『行ってらっしゃい』と背中で返した。
 空を見上げると大きな雲が一つ浮かんでいた。

 「本気で忘れてるとでも思ってるのかしら・・・・」

 『そこまで冷たい女じゃないわ』とだけ吐き捨てて、
 右肩に廊下の冷たさを感じた。

 *    *    *    *

 「ただいま〜〜」

 柔らかく頭の中で木霊する声はなんて心地良いんだろう。
 近づく足音と愚痴る声。

 「ったくこんな薄着で・・・・風邪引いてもしらねぇぞ」

 でもあんたは看病してくれるのでしょう?
 優しく膝の裏に手を差し込まれると、
 あたしはふわりと宙に浮いた。
 階段を昇る振動が彼の匂いを揺らし、より強く感じさせる。
 足で開かれた襖はあたしの部屋の物で、
 今降ろされようとしている畳もあたしの部屋の物。
 あたしのモノである彼の首に腕を巻きつけ引っ張ると、
 耳にあたしの唇が触れた。

 「おめでとう」

 驚きに目を丸くする彼が可愛くて、
 悪戯に微笑むと、葉は思い切り顔を綻ばせて、
 あたしを抱きしめた。
 一旦身を離したあたしが横目で見たのは、
 重なる一つの影だった。

 

  END

 

 嫁視点でした〜。
 こっちもフリー。
 こっちの方が甘い?
 どっちにしても出来損ない。
 見つけてくださった方有難うございましたぁ>▽<