あぁ、棘が刺さる
ーPAINー
ブラウン管の音に混じり小さな足音が聞こえ、
それはオイラの後ろで木の撓る音を残して消えた。
「何飲んでるの?」
その声に振り返ると襖を支えにアンナは髪の毛の水滴を拭うように、
手を軽く上下させていた。
少し開いた胸元に汗か水滴か何かが滑り込むのを見つけて
思わず視線が泳ぐ。
「ん、あぁ、麦茶」
悟られないよう震える声を隠す。
それに対し『ふうん』とオイラの隣に腰を下ろすと、
上気した頬と唇が目に入り清潔感のある石鹸の香りが鼻孔をつく。
―――うわっ、ヤベェって
「ねぇ、それ、ちょっと頂戴」
ほんのりと先をピンクに染めた少しふやけた指が
オイラの手に軽く触れてグラスを奪っていった。
思わずその続きを追ってせっかく逸らした視線がグラス越しのぼやけた唇に、
コクリ、と揺れる喉仏にまた捕まった。
ふぅ、と一息吐いた唇は明らかに先程より濡れていて、
気づいたときには勝手に口が動いていた。
「なぁ、キス」
「え?」
「あ、いや、なんでもねぇっ。オイラ寝るからっ、おやすみ!」
捲くし立てるようにそれだけ伝え居間を出ると急に顔が熱くなった。
あと、3文字が出てこなかった。
崩れた氷が
『意気地なし』
とでも言いたげに音を立てた。
*****
「遅い!」
少し息を切らして重たい鉄の扉を開けると、
その延長線上で髪を靡かせる彼女がこちらを向いた。
「わりぃ、売店混んでてよ」
「まぁいいわ」
静かに閉じた本はやや熱くなったコンクリートの上にそっと置かれる。
その空いた手にイチゴオレを渡し、
りんごジュースはなかった、と詫びを入れると
別にいいわ、といつもどおりの声が返ってきた。
夏の厳しい陽が射す中でも
アンナは屋上で昼メシを食うことを止めようとは言わない。
なぜかなんて聞いたことはなく、
ただその理由を想像しては箸を咥えて頭を掻いた。
ふと頭を上げるとプスリと刺されたストローが目の前でピンクの影を作り、
消されていく様が見えた。
はぁ、と吐かれた溜息が甘そうで脈が速まるのを指先で感じた。
ドキドキするのになぜか妙に落ち着いている。
なんか、したい。
―――何を?
どうやんだっけ。
―――確か、こう…
思い出すより早かった。
気づいたら何かが零れる音、それと甘い匂い。
目の前には震える長い睫毛、唇には柔らかな感触。
それは仄かに
「あめぇ…」
ゆっくりと離した唇が軽く震えて呟いた。
「当たり前よ、バカ…」
イチゴオレだもの、と照れ隠しのように言う彼女が可愛くて、
そうだな、とだけ返事をして
零れたイチゴオレの代わりに自分のそれを差し出した。
END
んあ〜、久々です。
初チュウモノが書きたくて。
純粋に行きたいと思ってたはずなのに、
なんか旦那様ムッツリ…。
そんな二人もスキだけど(笑)