38℃の高熱が37℃の微熱に変化したとき
彼はどこにもいなかった。
軋む骨の音を聞いて、
あぁ元からいなかったのか、
などとふざけた妄想に頭を膨らませ、
多分すぐに戻ってくるともう一度目を閉じ、
次に目を開けた時には外はほとんど闇だった。
熱を測れば37.6℃。
すこしふらふらする。
玄関にいつもあるはずの緑色のサンダルがないことに大きな違和感を覚えた。
ひゅう、と音を鳴らした隙間風に足もとが冷える。
「よう…?」
しんと静まり返った空気に心臓を持っていかれた気がした。
掴まれて、引きずり出されて、潰されて捨てられて。
あ、明日は燃えないゴミの日だったっけ?腐らないかしら。
どうやら彼を思い出すことと、
馬鹿なことに思いを馳せる思考だけは残っているようだった。
数日前に出した炬燵に隠れるようにして潜り込みテレビをつけると、
うとうとと瞼が重くなり始める。
現実逃避の世界まであと数ミリというところで玄関を開ける音がして、
かろうじて動く瞼と眼だけを動かして襖を見ようとしたら
彼の冷えた手は抱くようにしてあたしの頭に触れた。
「お前何やってんだ」
あれだけ休んでろつったのに、
と文句を言う彼に縋りつくようにして身体を絡めて、
視界の端で見えた雪崩を起こした林檎のように彼諸共畳の上に倒れ込んだ。
彼がいなくなった経緯を思い起こして。
**レトロ
37℃の微熱が続く理由なんて知らないけれど