−相互依存−

 

先ほどの雨が嘘のように止み、
地面に出来た滲みも徐々に乾きつつある光景を
オイラは縁側で見ていた。
隣で寝転ぶアンナは目こそ閉じているが、
意識はオイラの側にある。
微かに風が吹くとその髪を揺らし、
顔を出した太陽は眩しい程に輝かせた。
撫でれば柔らかく、また揺れる。

「・・・髪、伸びたな」

言うとアンナはぱちりと目を開き、
『そうね』と再び目を閉じた。

『そろそろ切ろうかしら・・・」

『暑くなってきたし』と独り言のように呟く。

「切るなよ。オイラこの髪好きだ」

アンナを形作る細胞の一部が
オイラの知らない所に行っちまうのは
余りにも切ない。
全てがオイラの元に無ければ
ほんの僅かの安心すら手にすることは難しい。

「そう?」

「あぁ」

オイラは寝転ぶと、
抱きすくめる様にしてその髪に口付けた。

 

END

 

嫁の髪が長い理由。←赤マルを激しく疑う。

 


―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

−瞼−

 

「んん・・っはっ・・・」

漏れる声は全身の神経が
快感を走り廻って居るから。
繁殖が目的ではなくても、
それは酷くあたしを喜ばせる。
『一番近くに感じられるから』
なんて酷く安易な言い訳かもしれないけれど、
浅ましい程に幸せだからそれを逃したくは無い。
言い知れぬ波は白く世界を塗りたくると、
葉は決まってあたしをキツクキツク抱き締めた。
肺も何も潰れてしまう程に。
多分それは優しい自傷行為。 
髪を撫でるとぽたりと頬に汗が落ちた。
その血肉すら愛しくて、
全て呑み込んでしまいたいと、
あたしは葉の首筋に唇を埋めた。

 

END

 

セックスは一つの自傷行為だと思う。

 

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−金魚−

 

葉が行ってしまって
あたしの中の彼が色を濃くし始めた頃、
あたしは箪笥の取っ手に手を掛けた。
 深くを探ると指先にさらりとした感触が伝わる。
捕まえることを許して、
久しぶりに外気に晒してやったそれは、
昨年の初夏に葉が買ってくれたもの。
『アンナに似合いそうだったから』
と鼻の頭を掻いて。
真っ白なワンピースの裾には
真っ赤な花が咲いている。
『着てみてくれよな』
と言ったクセに、それで散歩に行こうとすると
子供のように拗ねた顔をする。
結局散歩には行けなくて、
彼の腕に抱かれて眠ったけど、
それでいいと思った。
大きなプールに泳がされるより、
小さな金魚鉢で泳ぐ方が幸せだった。
たとえその世界しか知らないでいても、
抱かれて愛されていればそれでよかった。
水の無い金魚鉢では生きていけないのに、
貴方はそれにも気付かないで居て。
彼の意識の浸透しすぎた空間で、
欠乏しすぎた酸素を求めて
あたしはワンピースを抱きしめた。
水が金魚鉢に戻って時には、
今度こそ散歩に行こう。
それまではこのままにしておこう。
きっと金魚はまた泳ぎ始めるはずだから。

 

END

 

切なく。
初夏は一番切なくて寂しい季節だと思う。