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  −柔らかな痛み
 

 「今日だけは、一緒に寝てもいいよね・・・。」

 「おぉ・・・。」

 オイラは寝ていた体を起こし、布団の上に座るとアンナを待つ。
 やがてアンナは静かにオイラの部屋に入ると、
 戸惑いながらもオイラの座っている布団に座った。

 「泣くなよ。
 オイラお前に泣かれるとどうしていいかわからないんよ。」

 普段では見ることのないアンナにオイラはオロオロするばかり。

 「アンナ、泣くなよ。
 オイラたちもう会えなくなるわけじゃねぇだろ?」

 「・・・っくぅ・・ひっ・・・・だ・・けど・・」

 「だけど?」

 「だけど・・
 ・・明日からあんたはあたしのそばからいなくなる。
 ・・・S.Kになんてならなくったっていい!
 あたしの側にいてよ!!ねぇ、離さないで!!」

 『寂しい、寂しい』と泣くアンナをオイラは抱き締めた。

 「確かにオイラはお前の側からいなくなる。
 けどな、お前の中からオイラがいなくなるわけじゃねぇだろ?
 勿論オイラの中からもお前がいなくなるわけじゃねぇ。
 だからそんなこと言うな。
 アンナはS.Kの妻・・・・・オイラの奥さんになるんだろ?」

 泣きながら頷き、
 オイラの名前を呼ぶアンナにオイラは微笑みかける。


 

 ただ沈黙だけが制する世界を最初に破ったのはオイラだった。

 「アンナ・・・今ここで結婚しよう。」

 「何を言ってるの?できるわけないでしょう。」

 腕の中のアンナがいつも以上に小さく思える。
 そのためにも離したくないと思いながらも
 アンナを抱く腕に力を入れ、
 腕の中のアンナを引き離す。

 「できるさ。オイラたち二人だけの結婚式。」


 「二人だけの・・・。本当に?」

 「あぁ、本当だ。あの月が証人だ。」

 月に目を移し再びアンナへ目をやると、
 アンナは不安そうな顔でオイラを見る。
 オイラはアンナの小さな手をとり、互いが互いに誓った。

 「オイラ麻倉葉は、最愛の者恐山アンナをただ一人の妻とし、
 オイラのすべてを恐山アンナに捧げることを誓います。」

 「・・・あたし恐山アンナは、
 最愛の者麻倉葉をただ一人の夫とし、
 あたしのすべてを麻倉葉に捧げることを誓います。」

 暗闇と静寂

 ただその二つのみが存在する中に
 オイラの柔らかくも力強い声と、
 アンナの戸惑いがちだが強い意志を秘めた声が響く。
 



 誓ってもなお零すアンナの涙をオイラは舌で拭い取ると、
 左手の薬指に軽いキスをした。
 指輪の代わりにと・・・。

 「絶対に帰ってくるから。
 何があってもアンナの元に戻ってくるから。
 それまで待っててくれるか?」

 「当たり前よ。今度会うときはあんたはS.Kになっているのよ。
 そしてあたしはあんたの妻になっているのだから。」

 アンナは涙を流しながらも微笑みオイラを真っ直ぐと見据える。
 そんなアンナを見て、オイラは心が痛んだ。

 ドンナニツヨガッテモアンナハヨワイオンナノコナンダ 
 オイラハソレヲワカッテイルノニ
 アンナヲヒトリデオイテイクノカ?
 ナンテヒドイオトコ
 ナカシタクナンテナイノニ
 ハナシタクナンテナイノニ
 ズット・・・
 ズットソバニイタイノニ

 だから、せめて・・・

 「・・・アンナ・・・オイラのものになってくれんか?」

 アンナは涙の止まった瞳を見開き、
 優しく柔らかく微笑むとオイラの頬に優しく触れた。

 「おばか・・・あたしはいつだって
 あんたのものだったわ・・・。
 今も昔もこれからだってずっと・・・・。」

 『初めて逢ったあの時から』そういったアンナの声が
 ひどく嬉しく・・・けれども哀しく聞こえた。



 どちらからともなく自然と重なった唇は、
 離れては触れ合うことを繰り返す。
 合わせた唇の隙間から葉は舌を入れ、あたしの唾液を飲み込む。
 そして葉のそれもあたしに流れ込んでくる。
 唾液の味も覚えておきたかった。
 だから貪るように必死で飲み込んだ。



 あたしの胸を揉み解しながら、
 離れた葉の唇があたしの首筋や鎖骨と、
 体中いたる所を這いずり回る。
 そのたびに甘く小さな痛みと緋色の華を散らしていく。



 あたしの体が緋色の華に埋め尽くされたころ、
 葉はあたしの足の中心へ手を伸ばし、
 その無骨な指をあたしの中に沈めた。

 「っやああぁ・・・・ぁっ・・・」

 「きつい・・・アンナん中すっげぇ熱いな。」

 「・・・ばっ・・かぁ・・・・」

 月に照らさせた葉はが『男』に見えた。



 葉はあたしの中から指を抜くと、
 指に絡み付いている透明な液体を舐め取る。

 「アンナ・・・いいか?」

 「聞かな・・・でっ」

 精一杯の肯定。
 葉はあたしの腰を支え持ち上げると、
 ゆっくりと葉のモノをあたしの中へと沈めていった。

 「っつぅ・・・くぅ・・」

 「大丈夫か、アンナ?」

 「大・・・丈夫よ・・・」

 あたしがそう言うと葉は『そうか・・・?』と
 言い緩やかに動き出した。
 葉が動くたびにあたしの足の間から、薄紅色の液体が流れる。
 そしてそれは下に敷いてある布団を
 朱く(あかく)朱く汚してい く。
 痛みは残るものの、しばらくするとその痛みが和らぎ、
 少しずつだが確実に快感へと変わっていった。



 あたしは葉にキスを求めた。
 触れぬところなどないように。
 葉は驚いた顔をしたが、笑ってキスをくれた。
 たくさんのキスを・・・
 あたしは葉の背中に爪を立てた。
 葉と離れてしまう間、
 あたしと葉を繋ぎとめるものとなるように。
 消えぬように深く深い・・・



 まもなくして葉とあたしは絶頂を向かえた。
 葉があたしの中から出て行くと、一種の喪失感を覚えた。
 それが厭で葉の厚いとはいえないけど、
 無駄な肉のない胸にあたしは頬をつける。
 それに気づいたのか葉はあたしをきつく抱き締めてくれた。

 「なんかさ・・・」

 「ん、何?」

 葉はあたしの胸に顔をうずめ、あたしを抱きなおす。
 あたしは葉の頭を優しくなでてやる。
 なぜか恥ずかしくはなかった。

 「なんか・・・懐かしいんよ。
 こうしてると・・・生まれるまえみてぇで安心する。」

 「そう・・・じゃああんたが寝付くまでこうしていてあげる。」

 「サンキュ・・・。」

 葉の零した雫がとても温かかった。



 次の日・・・葉が旅立ってしまう日。
 あたしは葉を起こし着替えさせる。
 あたしはその間に布団をたたみ、浴衣の裾を整えた。
 そしてあたしは着替え終わった葉の前に正座をし、
 三つ指を立て、畳ギリギリまで頭を下げる。

 「頑張ってきてください・・・・あたしはいつまでも、
 あなたを待っています。」

 「おぉ。」

 顔を上げると朝日を背にし、
 緩やかだけれどもどこか厳しい面持ちで立っている葉がいた。

     *  *  *  *

 あたしたちは朝食を食べ終え、葉を見送るために外へ出る。
 あたしの隣には泣きながら葉にお守りを渡すたまお。

 「葉、いってらっしゃい。」

 「おう、行ってくる。っと、忘れ物。」

 葉は笑ながらあたしに近づく。
 そして触れるだけのキス。皆のいる前で。
 あたしはあまりの突然の出来事に顔を赤くし、
 葉を殴るタイミングを失った。

 「たまおからお守り貰ったんだから、
 アンナからも貰わんとなvvv」

 葉は顔を赤くするあたしたちを尻目に、炎を発っていった。
 まん太は学校へ、
 たまおは家の中へそそくさと入り
 そこにはあたしだけが残された。
 あたしは空を見上げ、小さなため息をついた。
 それは寂しさからではなく、
 “近いうちにまた逢える”そんな予感のするものだった。




 ねぇ、葉。 
 あなたと再び逢う時の空は、
 こんな風に蒼く蒼く澄んでいるのかしら?


  END