−甘やかな痛み−
葉が旅立って行った朝、
あたしはたまおに一週間ほどの暇を出した。
暇を出されたたまおは荷造りをして、
申し訳なさそうに出雲へと帰っていった。
そして私は遅刻をして学校へ行き、
何もせずにただボーっとしていた。
つまらない・・・。
心底つまらないと思った。
“葉がいない”それ以外はすべていつもどおりなのに。
違うのは“葉がいない”ただそれだけのこと。
なのになんでこんなにも違うの?
あたしは四時間目が始まる前に早退した。
学校にいてもつまらないだけだし、
昨夜はあまり寝てなくて体もだるかったし。
帰り際にまん太が
「アンナさん、どうしたの!?
めずらしいね、早退だなんて。どっか悪いの?」
なんて言うもんだから殴ってやったわ。
あれは軽く5〜6mは飛んだわね。
飛んだあと壁にぶつかって落ちていったけど。
クラスの奴らが
「恐山さんが小山田を殴ったぞ!!!」
「えぇ!?嘘でしょ!?」
「信じられない!!」
とかいろんなこと言ってたけど、
あたしには関係のないことね。
今はただ寝たいわ。
静かなところで、長く深い眠りにつきたい・・・。
炎に着きあたしが向かったところは
居間でも自分の部屋でもない、葉の部屋だった。
部屋に充満した葉の匂いは葉の姿を思い出させる。
ユルく笑う葉を思い出して、
溢れてくる気持ちをあたしは必死で押し殺した。
部屋の真ん中に敷かれたままの布団は
昨夜の出来事を思い出させた。
すべてが初めてだった・・・。
葉の優しく温かい、それでいてどこか厳しい顔を見るのも、
耳元で囁かれた言の葉も、
唇を重ねたことも、
そして・・・
優しくも激しく抱かれたことも・・・。
それはとても神聖なものだった。
月だけが見守る中、二人は誓いを立てた。
「アンナ・・・今ここで結婚しよう。」
「何を言ってるの?できるわけないでしょう。」
「できるさ。オイラたち二人だけの結婚式。」
「二人だけの・・・。本当に?」
「あぁ、本当だ。あの月が証人だ。」
あたしは下げていた顔を上げ、葉を見る。
葉はあたしの手をとると真剣な顔をし、
心地の良い声で誓いの言葉を放った。
「オイラ麻倉葉は、
最愛のもの恐山アンナをただ一人の妻とし、
オイラのすべてを恐山アンナに捧げることを誓います。」
「あたし恐山アンナは、
最愛のもの麻倉葉をただ一人の夫とし、
あたしのすべてを麻倉葉に捧げることを誓います。」
葉はあたしの頬を伝う雫を舐めとると、
左手の薬指に軽くキスをした。
「絶対に帰ってくるから。
何があってもアンナの元に戻ってくるから。
それまで待っててくれるか?」
「当たり前よ。
今度会うときはあんたはシャーマンキングになっているのよ。
そして私はあんたの妻になっているのだから。」
それから後はほとんど覚えていない。
覚えているのは葉が降らすキスの雨に身を捩じらせる自分と、
『愛してるぞ。』と囁く葉の声。
そして彼があたしの中にすべてを吐き出してくれたこと。
ふと我に帰りあたしは頬を赤くした。
“何を考えていたのだろう・・・。”
そう思いながらも、葉の残り香を感じて葉の姿を思い出し、
今朝葉と自分が寝ていた布団に寝ころがり、
葉の浴衣を抱き締めて、
既に消えてしまった葉のぬくもりを探す自分がいた。
「葉・・・・会いたいよ・・・。」
この世に存在する彼のすべてが、
今まで押し殺してしてきたモノを呼び戻させた。
「っ・・・よ・・ぉ・・・」
頬を伝う温かなモノを拭いもせずに、あたしは目を閉じる。
“夢に中ではあんたに会えるのかしら?”
と小さな光を抱きながら闇の中へと堕ちていった。
ただ甘く鈍い痛みを体の奥に感じながら・・・
END