花忍 V
想う女の姿を見れることに心は躍ったものの、
そこへ向かう足取りは少なくとも軽くは無かった。
想人のいる遊郭へ行く途中に 彼女の名前が
“アンナ”
ということを知った。
太夫の称号を持ちそれ以来決して客を取らないことも、
そして決して笑わないことも知った。
赤く彩られた綺麗な大きな門をくぐり、
まん太がまだ十にも届かないだろうという少女に声を掛けるのを目にして、
目の前に聳え立つ無機質な建物にほんの少しの不安を感じた。
「葉くん葉くん、アンナさんあの部屋にいるって」
ちょこちょこと走るまん太が指差したのは、
一番奥にひっそりとある部屋だった。
逸る気持ちを抑えようと拳をきつく握り締めても、
ただ速度を増すばかりの心臓はまるで自分のものではないようだ。
一度力を抜いたつもりの手を襖に掛けようとしたとき、
掠れた音で襖が開いて目の前には昨夜オイラの見た亜麻色の髪の女がいた。
「あ・・・・・・」
思わず出した腑抜けた声に女は幽かに眉を持ち上げ、
オイラを見ていた視線は隣で突っ立つまん太へと落とされた。
「何か用?」
りん、と静かに響くその声に確実にオイラの熱は上がり、
手の平の薄い皮膚一枚奥で血潮が騒ぎ出し、
まだ古くない記憶を更に鮮明な、色濃いモノにさせた。
「あ、あのね、アンナさん。この人僕の友達なんだけどアンナさんに会いたいらしくて・・・」
一度は離された視線が突きつけられるようにオイラに向けられて、
目線を合わせたほんの一瞬のその奥の瞳が幽かに揺るいだ気がした。
「あら・・・・怪我は大丈夫?」
「あ、あぁ、昨晩はありがとな」
『どういたしまして』と決して変わらない表情が先に聞いた話に真実味を持たせ、
それでも昨夜の彼女の去り際の仄かな微笑がオイラの中にある淡く強い思いを彷彿とさせた。
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よしっ。
再会!(はぃ?)
襖にしようか障子にしようか変なところで迷った・・・・・。
でもどっちかにすることで雰囲気変わるんだもん!!